アップルストアの成功

今回は久しぶりにリテールビジネスの話。

先週金曜日にニューヨークの5番街に、世界で147番目となるアップルストアがオープンした。

Apple's Retail Strategy Reinforces Brand

http://news.yahoo.com/s/ap/20060519/ap_on_hi_te/apple_retail;_ylt=AnQ0rGH.XVzw3MlII8wnbAYjtBAF;_ylu=X3oDMTA5aHJvMDdwBHNlYwN5bmNhdA--

FY2005年度での実績では、アップルストアの売り上げが$2.35 billion、利益が$151 millionと収益に貢献している。アップルストアは2001年の5月に1号店がオープンしたが、2年後の2003年の9月以来ずっと利益を出していると言う。

5月17日のWall Street Journalにもこのアップルストアに関する記事があったが、ここでも指摘されている通り、2001年当初はアップルが直営店を展開するのはギャンブルだと見られていた。まだiPodが大ヒットする前の話だったので、彼らの主力商品はマッキントッシュのみ。Windows PCに対してシェアが伸び悩んでいた中で、コストのかかる直営店をどう成功させるかというのが大きな疑問であった。

しかし、アップルの意図は直営店をオープンする以前から見て取れていた。当時マッキントッシュを扱っていた主力リテーラーはCompUSA。アップルがBest BuyやCircuit Cityなどのより大きなリテーラーとなかなか良好な関係を築けなかった背景には、アップルが意図する通りのリテール環境をBest BuyやCircuit Cityが提供できなかったことにある。

例えば、大ヒットとなった初代iMac。5種類のカラーバリエーションがあったが、この全色を店頭で扱うことに同意したのはCompUSAだった。CompUSAは店内にアップル専用のコーナーを設け、アップルによる展示の仕方から店頭での説明員の要求にまで応じた。スティーブ・ジョブスのブランドに対するこだわりは、こうした店頭での売り方ひとつを取っても妥協を許さず、Best Buy、Circuit Cityの持つ全米1000店舗以上のリーチをあきらめるほどだったのだ。

直営店であれば当然展示の仕方や、説明員の配置まで全て自前でコントロールすることになる。実際直営店のデザインにもスティーブ・ジョブスが直接口を挟んでいるという。アップルブランドを守っていくためには、おそらく他に手段がなかったのだ。

その後のアップルストアの成功は、もちろんiPodの成功に拠るところが大きい。iPodがここまで成功しなければ、おそらく直営店も経営数字的には失敗していただろう。iPodの成功は、直営店へより多くの消費者を惹きつけることに成功した。一度お客さんを店内に入れてしまえば、そこはもうアップルの世界。アップルブランドのコアにあるのは、デザインと使い勝手の良さ。これらは商品としてきれいに展示され、実際に動作しているものを触ってもらってはじめてきちっと伝わるものだ。現在直営店で売れるマッキントッシュのうち、半数はマックが初めての客向けだという事実は、アップルがiPodで誘導した客にマッキントッシュを売ることに成功していることを裏付けている。

アップル以外にも、直営店を持つ家電・PCメーカーはいくつかある。現在のところうまくいっている(ように見受けられる)のは、BOSEソニー、デル(主にショッピングモール内の仮設スペースで展開)の3社。これらの会社に共通して言えるのは、ブランド力があるということである。

以下に最近Forrester Research社が行ったブランド調査のグラフがある。
http://arstechnica.com/news.ars/post/20060330-6491.html

これを見ても分かるとおり、ブランド信用力でトップ4の会社がBOSE、アップル、デル、ソニー。直営店を持つブランドと一致している。直営店では他社の商品との比較ができないので、ある程度そのブランドに信用があって、そのブランドに決めている客がいなければ成り立たないのは自明の理だ。

この中で一番長い歴史を持つのがBOSE。1993年に最初の直営店をオープンして以来、現在全米で126店舗を展開している。BOSEの場合も、直営店展開のきっかけはアップルと同様だったのかもしれない。ハイエンドオーディオの世界で卓越した技術を持つBOSEの場合も、実際に客に音を聞いてもらわないことにはその商品の良さが伝わらない。その意味では既存のリテールの限られたデモ環境では限界があったのだろう。

実際にBOSE Storeに行ったことのない方には、ぜひ一度足を運んでみることをおすすめしたいのだが、彼らが直営店内のミニシアターで展開するデモンストレーションは、$3,000以上もするホームシアターサウンドシステムを本気で欲しいと思わせるだけの説得力がある。

一方のソニーの直営店SonyStyle Store。こちらはどうも中途半端な印象を受ける。BOSEのようなミニシアターでのデモがあるわけでもなく、アップルのように徹底的に商品を触らせてデモするようなセッティングでもない。ソニーの場合はBOSEやアップルに比べて扱っているカテゴリーがはるかに広いこともあるのだろうが、それぞれの商品からなかなかメッセージが伝わってこない。単に商品を並べているだけだったら量販店と変わらないわけだから、もう一工夫欲しいところだ。