映画のダウンロードサービスのその後

ここしばらく海外を飛び回っていたので、最近はそれほどアメリカ国内の動きを追いかけていなかったのだが、一段落したのでちょっと最近のニュースをさらいながら、7月27日のエントリーで書いた予測の、4ヶ月経った時点での経過を追ってみる。

  • Movielink/CinemaNow

両社ともその後特に大きな動きはないが、CinemaNowが9月に初めてパッケージのDVDリリースの日と同時にDownload to burnもサービスを開始するという、いわゆる「Day and Date」というのをやった。しかも値段はパッケージのDVDよりも安い$9.99。タイトルは「The Fast and the Furious: Tokyo Drift」で、比較的若年層をターゲットとした映画だったので、Download to burnのサービスを抵抗なく使うであろうtech-savvyな客層とマッチしたタイトルだったのではないだろうか。これまでダウンロードサービスを提供してきたサービス業者の不満は、DVDのリリースウインドウに対してダウンロードがいつも遅れていることだったので、このウインドウがなくなって同時に発売ができるようになったということで、どの程度販売が伸びるのかというのが注目されていた。
結局CinemaNowからは公式な数の発表はなかったのだが、Video Businessの記事によると、どうやらその数は数百ダウンロード程度だったということで、これはまったくの期待外れに終わったわけだ。CinemaNowでダウンロード販売が振るわない原因は少なくともウインドウではないということがわかったのが収穫か。

  • アップル

9月の映画ダウンロードサービス開始から1週間で12万5千ダウンロードを達成したというのは9月20日のエントリーでも触れたが、その後ややペースは衰えたものの、8週間で50万ダウンロードを達成したという。NPDのデータによると、CinemaNowやMovielinkでダウンロードされている映画の数は、トップタイトルでも200から400ダウンロードというレベルなので、これらに比べるとさすがにiTunesの数は桁違いということになる。現在はおそらくは週に5万ダウンロードくらいのペースで推移していると思われるが、この数字をパッケージのDVDと比べるとどうだろう?

Variety誌の10月の記事によると、今年第3四半期までのディズニーのDVDをはじめとするホームエンターテインメントにおけるシェアは13.7%。仮にディズニー以外のスタジオの映画もiTunesでオファーされていたとして、週のダウンロードが約36万。これは年間にすると約1900万ダウンロードということになる。ちなみに昨年のパッケージDVDの出荷総数は約16億枚。今年も同程度の出荷数と仮定すると、かなり乱暴な換算ではあるがダウンロードがパッケージDVDに対して1%程度の数ということになる。

サービス開始当初の数字としてはまずまずと言っていいのかもしれない。今後どの程度他のスタジオのサポートを得られるのか、そしてどこまで数字が伸ばせるのかを引き続き注目していくことにしよう。

アップルに先駆けてUnboxと呼ばれるダウンロードサービスを開始したAmazonだったが、こちらは全くの不発だった模様。OSがWindows XPにしか対応していないとか、専用のソフトに技術的な問題があったりとかいろいろネガティブな話題ばかり振りまいていたようだが、本質的にはブランド力でアップルに負けているということだろう。しかも、サービス開始前にいろいろ報じられていたようなパッケージDVDの販売と連携するよな売られ方をするわけでもなく、またUnboxのページそのものがAmazonのDVDのページとは全く独立のつくりになっていて、AmazonにDVDを買いに来た客がサービスに気付かないだけでなく、Unboxのサイトに来た客にしてもRecommendationなどがDVDと連動しているわけでもないようなので、全くこれまでのAmazonの資産が生かされていないお粗末なサービスになっている。
どう考えても本気で取り組んでいる様には見えないのだが、果たして今後どこに向かっていくのだろうか?

  • WalMart(とその他リテールキオスク)

最近の動きといえば、キオスクにダウンロードした映画をDVDに書き込みができるようにするCSSの改定が承認されたこと。WalMartでは来年のサービス開始に向けて準備を進めているが、一方で最近はDVD書き込みではなく、DVDレンタルのキオスクがあちこちに増え始めている。

2月26日のエントリーで、マクドナルドのDVDレンタルキオスクについて書いたが、同様のキオスクが最近では食料品スーパーや、ドラッグストア、WalMartにも広がりつつある。家の近くのSafewayという食料品スーパーにもキオスクが設置されているのだが、Safewayのキオスクでは50%以上の客が1日でDVDを返しに来ると言う。アメリカでは毎日食料品を買いにスーパーに行く人は稀なので、SafewayにしてみればDVDレンタルがあることによって、より頻繁に客に来店してもらうことができるわけだ。

DVDレンタルのキオスクなら、DVDに焼く時間を待つ必要がないし、1日$1という値頃感もあるので、最新のヒットタイトルに限ってみればレンタルキオスクの方がよっぽど魅力的だ。

こちらは特にダウンロードに関する動きはまだないが、ライバルのBlockbusterとの戦いはヒートアップしている模様。Netflixの後塵を拝しているBlockbuster Onlineだが、11月にTotal Accessというオンラインと実店舗でのレンタルを組み合わせたプランを発表し、実店舗を持つことをNetflixとの差別化につなげようとしている。これはオンラインでレンタルしたタイトルを店舗に持ち込んで返却してもいいというもので、その場で新しいタイトルを借りるか、店舗で返却した時点でオンラインの次のタイトルをすぐに出荷してもらうかを選ぶことができるというもの。Netflixの場合は返却したタイトルが配送センターに送られるまでの1日のタイムラグがあるので、より多くのタイトルを借りることができるというわけだ。
おそらくはこのアドバンテージをNetflix加入者にプロモートする目的で、Blockbusterは現在期間限定で、Netflixの封筒をBlockbusterの店舗に持ってくると、Blockbusterの店舗会員登録(無料)と引き換えにDVDを1タイトル無料でレンタルというキャンペーンをやっている。しかし、そもそもNetflixの加入者は借りたタイトルを返しに来るのが面倒くさかったり、Late Feeを取られるのがいやでNetflixに入っているわけだから、このプロモーションがどの程度効果的なのかはおおいに疑問ではある。