加熱するDVDレンタルビジネス

ビデオに関する話題と言えば、最近は何かとiTunesのダウンロードサービスとかApple TVが話題になるのだが、どっこい今一番熱いのはDVDレンタルのビジネスではないだろうか?

  • 郵送によるレンタルビジネス

このブログで何回か取り上げているNetflix。いずれはダウンロードに取って代わられると言われ続けながらも順調にビジネスを伸ばしてきた。この犠牲になったのが、老舗のBlockbuster。延滞料で儲けてきたビジネスモデルの見直しを迫られ、延滞料の撤廃、不採算店舗の閉鎖を強いられてきた。Netflixの後追いで始めたBlockbuster Onlineもなかなか加入者を伸ばせず、株価も2002年の$30近くの高値から、昨年の底値の$3近くまで下降の一途であった。

ところが、ここにきてなにやら変化が起き始めている。

昨年11月にBlockbusterはNetflixに対して巻き返しを図るため、Total Accessという新しいプログラムをアナウンスし、大々的なプロモーションを開始した。これはNetflixがDVDを返却するときに郵便による1−2日のタイムラグが発生するのに対し、Blockbusterは店舗での返却を受け付けることでこのタイムラグが解消され、Netflixよりも多くのDVDを借りることができるというもの。店舗返却の際に、その時点で次のDVDを発送してもらうか、または店舗でDVDを借りることも可能になっているので、すぐに見たい映画があるときには便利なサービスである。何よりも店舗を生かしたプランであるがゆえに、Netflixはどう頑張っても真似することができない。テレビコマーシャルで比較広告を打ったり、Netflixの封筒の宛名部分をBlockbusterに持ち込むと無料で1枚レンタルができるなどのキャンペーンの効果もあり、このアナウンスからわずか2ヶ月ほどの間で70万人もの新規加入者を獲得することに成功したのである。11月には$4程度だった株価も現在は$6台半ばまで上昇している一方で、Netflix株はここ2ヶ月で20%程値を下げた。

テレビコマーシャルはまだ続ける様子なので、このモメンタムはまだしばらく続きそうだが、今後注目すべきは2つ。一つ目はNetflixインパクト。Blockbusterに新規加入した人のうち、どの程度がNetflixからの乗換えなのか?Netflixへの新規加入がどの程度打撃を受けたのか?Netflixの四半期業績発表が来週なので、そこである程度は明らかにされると思われるが、2010年までに2000万加入者を目指しているNetflixにとって、Blockbusterがこのまま勢いを保つようだと値下げなどの措置を取らざるを得なくなるかもしれないリスクがある。

二つ目は、このTotal Accessがどの程度の利益を稼ぎ出せるのか?通常DVDのレンタルビジネスにおいては、新作の方がコストが高く、旧作の方がコストが安い。Netflixはその独自のRecommendation Engineによって、より旧作を薦めることで利益率を高めているが、BlockbusterのTotal Accessのプランに引かれて加入する人たちというのは、1.新作をすぐに見たがる人、2.1枚でも多くレンタルしたい人、というビジネスをする側からすれば最も利益率を下げる顧客層である可能性が高い。Netflixにしてみれば、最も歓迎しない顧客層を逆にBlockbusterが持っていってくれたということで、加入者数で差を縮められても利益率では差を広げることができるということになる可能性もある。

以前から予告されていた通り、きのうNetflixがオンライン戦略の発表をした。AppleAmazonが相次いで映画のダウンロード販売に参入してきた中で、Netflixがどう出てくるかが注目されていたわけだが、結局蓋を開けてみると非常にローキーな内容であった。

提供されるのは、加入者が追加料金なしで利用することができるストリーミングのサービス。月額$5.99のDVDレンタルプランの加入者なら毎月6時間、$17.99のプランの加入者なら毎月18時間と言った具合にストリーミングできる時間の上限が設定され、その時間内であればいつでも1000タイトルほど用意されているストリーミング用のタイトルを自由に視聴することができるというもの。コンテンツをダウンロードしてハードディスクに保存したり、DVDに焼いたりといったサービスは提供されていない。

おそらくこの計画はBlockbusterがTotal Accessをアナウンスする以前から準備されていたものだろうが、結果的にBlockbusterがinstant gratification(すぐに欲求を満たしてくれること)をウリにしているのに対抗するサービスとして位置づけることができるものになっている。

AppleAmazonのようなダウンロードサービスを提供しなかったのは、個人的には正解だったと思う。現状のアメリカのブロードバンドの帯域や、ダウンロードに対するスタジオ側のライセンスの制約などを考えると、中途半端なサービスで顧客の不満を買うよりも良かったのではないだろうか。いずれ環境が整えばサービスを充実させる予定とのことなので、第一歩としては必要十分だろう。

  • キオスクによるDVDレンタル

NetflixとBlockbusterが戦いをひろげる一方で、まったく違うところでDVDレンタルのビジネスが拡大しつつある。これまでにも何回かキオスクの話は取り上げてきたが、ここにきてますます広がってきている模様。

最大の魅力は1日$1という値段と、手頃さだろう。マクドナルドを中心に展開してきたRedboxは既に2000箇所以上で稼動していて、向こう数年間でさらに倍増させる計画。食料品スーパーを中心に展開するTNR Entertainment社による"The New Release"というレンタルキオスクも、2007年の早いうちに2000箇所を超え、いずれは2万箇所の設置を計画している。

これらキオスクはタイトルが70−100タイトルと限られているので、直接NetflixやBlockbusterのオンラインのビジネスを脅かすものではないかもしれないが、Blockbusterや他の小規模のビデオレンタル店舗の中にはすでにある程度の打撃を受けているところがあるようだ。

DVDレンタルもこうしてオプションが増えて便利になってくるにつれ、ますますオンラインでのダウンロード販売の魅力が薄れてくる。Netflix CEOのReed Hastingsは、DVDビジネスはまだ向こう10年は安泰だと発言していたが、さもありなんという感じだ。