ディズニーの無料番組配信の本質

今週ディズニーが、傘下のネットワーク局ABCのプライムタイムの人気番組を無料でストリーミング配信する試みを発表した。「Desperate Housewives」、「Lost」など、すでに有料でiTunesからダウンロードで提供されているプログラムも含んでいるが、ストリーミング配信にはスキップできないCMが付いてくる。以下はSan Jose Mercury Newsの記事。

http://www.mercurynews.com/mld/mercurynews/business/14315086.htm

3月16日のエントリーでも触れたとおり、これは予告されていたものであったが、The National Showに集まったケーブル業界関係者の間ではホットな話題になっていた。

この発表以来さまざまな記事・批評が書かれているのだが、中にはケーブルはもういらなくなるとか、ABCのアフィリエートが黙っていないだろうとか、トーンとしては消費者にはプラス、業界にはネガティブなものが多い。

投資家向けの話の中で、ディズニーCEOのRobert Igerが次のように述べている。


What we can't do is we can't let a fear of that relationship being challenged or creating tension with them (traditional partners) get in the way of following consumers who are going to other places. We just can't do that.

消費者が望むものを提供することが第一という正論なわけだが、そんな言い訳をしなくても周囲の心配は杞憂に終わるのではないかと思う。

コンテンツの消費形態のオプションを増えるというのは、それぞれのオプションの間のゼロサムゲームではなく、逆に視聴者のパイを増やしていると思う。インターネットでのストリーミング視聴というのは、たまたま見逃してしまった、あるいは録画予約するのを忘れてしまったといった人たちが後で見るというのがおそらくほとんどで、インターネットで見れるようになったからテレビで見るのをやめようという人はほとんどいないだろう。逆にこれまでは重なっていた時間の別の番組を見ていた人が、インターネットで見ることができるようになったことで新しい視聴者となるケースもある。

最近CBSがNCAAトーナメントをストリーミング配信して大ヒットした例がある。これにはいくつか理由が考えられるのだが、大きくは二つ。一つはローカルでは放送していないゲームを見ることができたということ。もう一つは昼間にオフィスからアクセスできたということである。(余談だが、CBSのストリーム画面のツールには「Boss」ボタンというのがあったらしい。これを押すと表計算の画面に変わるというもの。)

いずれの理由も、もともとテレビで見るはずだった視聴者を奪っているのではなく、見たくても見れなかった人に手段を提供したことで全体のパイが増えたといえる。

iTunesによる有料のダウンロード配信から、無料のストリーミングに乗り換える人はいるかもしれないが、それでもiPodで見たい人、あるいはストリーミングではなくノートパソコンにダウンロードしておいて飛行機の中で見たい人などは、引き続き使い続けるだろう。

結局こうしてオプションが増えることで争うことになるのは、その手段ではなく、視聴者の時間である。iPodでテレビ番組をみることができるようになったことで、例えば電車で通勤していた人の音楽を聞いていた時間をテレビが奪っているのかもしれないし、ストリーミング配信はオフィスでの仕事時間を奪うことになるのかもしれない。

他のネットワークも、あるいはケーブル専門チャンネルも、どんどんディズニーを見習ってやってみるといい。それがテレビ視聴ではない他のことをしている時間を奪えている限り、またこれらの代替手段がテレビでの視聴に勝る快適な視聴手段になることがない限りは、視聴者が減ることはないだろうから。