リテールビデオレンタルチェーンの生き残り戦略

Netflixはじめ、新しい形態のビデオレンタルに押されて業績を悪化させ続けているのが既存のリテールのビデオレンタルチェーン店。これまでもいくつかエントリーを書いてきたが、最大手のBlockbuster、2番手のMovie Galleryが、最近ダウンロードにも目を向けている。

まずはBlockbuster。ちょっと前にダウンロードサービスとしては老舗のMovielinkの買収交渉をしていると報じられた。値段は$50 million。以前は$80 millionで話がされていたらしいのだが、Appleの映画ダウンロード参入によって価値が落ちてきたらしい。NPDによると、ダウンロードにおける現在のMovielinkのシェアはわずかに3%しかない。

昨年7月のエントリーで、MovielinkとCinemaNowは3年以内になくなると予測したが、どうもMovielinkはBlockbusterのサービスとして取り込まれる方向になってきた。

ところで、BlockbusterにとってMovielinkの買収はメリットがあるのだろうか?
おそらくMovielink単体で存続していたときよりは価値は上がるだろう。Blockbusterの膨大な顧客ベースに対して、店舗ベース、Total Accessのオンラインベースのオファーとの組み合わせの中で、一つのレンタルの形態としてのダウンロードをオファーできるのであれば、利用者は増えるかもしれない。

ライバルのNetflixが先般開始したサービスは、インターネットにつながっていないといけないというデメリットがある。Movielinkのサービスのいいところは、ダウンロードしてしまえばあとはオフラインで視聴できるところにあるので、ビジネストラベラーなどには便利なサービスではあるが、カギとなるのはサービスプランの形態だろう。Netflixのストリーミングサービスは、既存の郵便ベースのサービスに対して追加料金を取っていない。現行のMovielinkのサービス同様ダウンロードごとに$3-$4という形態よりも、Total Accessの定額料金のプランの中で何本ダウンロードも可能といったような形態にするべきだろう。

次に2番手のMovie Gallery。こちらは昨日MovieBeamを買収したと発表した。
昨年2月のMovieBeamに関するエントリーで、これも長続きしないだろうと予測したが、こちらもMovie Galleryに取り込まれた形になった。買収金額は公表されていないが、Movie Galleryは買収とサービス開発にかかる予算は今年度中で$10 million以下と言っているので、買収金額そのものも$10 million以下であることは間違いなさそうだ。この新サービスが始まったときには、CiscoIntelなどの大手から$50 million以上の出資を集めていたのだが、この投資は全く回収できなかったということになる。

しかしこのMovie GalleryによるMovieBeamの買収は、まったくもって理解に苦しむ。$10 million以下という安い値段での買収ではあるが、このサービスのネックは以前にも指摘した通り新しくセットトップボックスを設置する必要があること。リテールでこのセットトップボックスを売るというのがうまくいかなかったことは既に実証済みであるから、Movie Galleryのとりうる戦略としては、ケーブル会社のようなセットトップボックスのリース形態くらいか。

実店舗ベースで持つ顧客ベースに対して、このMovieBeamのセットトップボックスをリースすることで、店舗に足を運ばなくてもある程度のタイトルは見れるようになりますよ、というサービスはあり得る。しかしこれはMovie Galleryがセットトップボックスの負担をすることになるので、経営上はかなりのリスクをとることになる。

しかも、MovieBeamのサービスは電波を借り上げてデータ配信をしているので、サービスを継続している限りは、加入者が増える増えないに関わらずかなりの固定費がかかってくるはず。これを回収するためにはある程度の加入者を獲得しなければならない。昨年2月にMovieBeamの新サービスが発表されたときには、50万加入者を獲得してやっと収支トントンという話だったから、Movie Galleryもこれと同程度の加入者を集める必要があるということになるが、買収金額含めた$10 millionの予算では、とてもそこまで加入者を獲得できるとは思えない。

ということで、MovieBeamについては前回の予測を継続し、買収されてもすぐになくなるだろう、ということにしておく。

たまにはローテクもいい

これまでビデオに関する話題が多かったのだが、今回はデジタルイメージングの話。
最近巷でよく見かけるようになったのが、デジタルフォトフレーム。額縁にLCDが埋め込まれていて、メモリーカードを挿すとスライドショーを見せてくれるやつが一般的なのだが、ちょっとユニークなものを見つけた。

CEIVA Digital Photo Frame
http://www.ceiva.com

このフォトフレームのウリは、離れたところからこのフレームに写真を送れてしまうところ。

実はアイデアそのものはまったく新しいものではない。すでにインターネットに接続できるタイプのフォトフレームはいくつか世の中にある。しかしこのCEIVAのフレームで感心したのは、電話線を使っているということだ。

ネットワーク対応のフォトフレームをおばあちゃんの家に置きたいと思っても、おばあちゃんの家にはインターネットがつながっていない。しかしこのCEIVAのフレームなら、電話線につなぐだけ。CEIVAのサーバーに写真をアップロードしておけば、フレームが自動的に夜中にフリーダイアルの番号に電話して写真をダウンロードしておいてくれるのだ。

しかもこの写真にメッセージをつけておくこともできるから、毎朝おばあちゃんにメッセージつきの子供の写真を送ることだってできる。

ハイテクの世界に身を置いていると、どうしても最新の技術や動向に目が行ってしまいがちなのだが、実は電話線というローテクを使うことで、もっともおばあちゃんフレンドリーな商品ができてしまったりする。テクノロジーというのは、基本的にはenablerであるべきだ。消費者がやりたいことがあって、それを可能にするのがテクノロジー。でもこの世界にいると、時々「消費者のやりたいこと」から発想が始まるかわりに、テクノロジーから発想が始まってしまうことがある。

「こんな新しいテクノロジーがあるから、こんなことができるんじゃないか?」と考えるのはもちろん悪いことではないのだが、そこから生まれたアイデアが果たしてテクノロジーの押し付けになっていないだろうか、本当にそれは消費者がやりたいことなんだろうかっていうことを必ず冷静に考えなければいけない。

このブログでよく話題にするネットビデオの話にしてもそうだが、ネットでビデオが見れるようになったからといって、それが本当に消費者が望んでいるものとは限らないのだ。

加熱するDVDレンタルビジネス

ビデオに関する話題と言えば、最近は何かとiTunesのダウンロードサービスとかApple TVが話題になるのだが、どっこい今一番熱いのはDVDレンタルのビジネスではないだろうか?

  • 郵送によるレンタルビジネス

このブログで何回か取り上げているNetflix。いずれはダウンロードに取って代わられると言われ続けながらも順調にビジネスを伸ばしてきた。この犠牲になったのが、老舗のBlockbuster。延滞料で儲けてきたビジネスモデルの見直しを迫られ、延滞料の撤廃、不採算店舗の閉鎖を強いられてきた。Netflixの後追いで始めたBlockbuster Onlineもなかなか加入者を伸ばせず、株価も2002年の$30近くの高値から、昨年の底値の$3近くまで下降の一途であった。

ところが、ここにきてなにやら変化が起き始めている。

昨年11月にBlockbusterはNetflixに対して巻き返しを図るため、Total Accessという新しいプログラムをアナウンスし、大々的なプロモーションを開始した。これはNetflixがDVDを返却するときに郵便による1−2日のタイムラグが発生するのに対し、Blockbusterは店舗での返却を受け付けることでこのタイムラグが解消され、Netflixよりも多くのDVDを借りることができるというもの。店舗返却の際に、その時点で次のDVDを発送してもらうか、または店舗でDVDを借りることも可能になっているので、すぐに見たい映画があるときには便利なサービスである。何よりも店舗を生かしたプランであるがゆえに、Netflixはどう頑張っても真似することができない。テレビコマーシャルで比較広告を打ったり、Netflixの封筒の宛名部分をBlockbusterに持ち込むと無料で1枚レンタルができるなどのキャンペーンの効果もあり、このアナウンスからわずか2ヶ月ほどの間で70万人もの新規加入者を獲得することに成功したのである。11月には$4程度だった株価も現在は$6台半ばまで上昇している一方で、Netflix株はここ2ヶ月で20%程値を下げた。

テレビコマーシャルはまだ続ける様子なので、このモメンタムはまだしばらく続きそうだが、今後注目すべきは2つ。一つ目はNetflixインパクト。Blockbusterに新規加入した人のうち、どの程度がNetflixからの乗換えなのか?Netflixへの新規加入がどの程度打撃を受けたのか?Netflixの四半期業績発表が来週なので、そこである程度は明らかにされると思われるが、2010年までに2000万加入者を目指しているNetflixにとって、Blockbusterがこのまま勢いを保つようだと値下げなどの措置を取らざるを得なくなるかもしれないリスクがある。

二つ目は、このTotal Accessがどの程度の利益を稼ぎ出せるのか?通常DVDのレンタルビジネスにおいては、新作の方がコストが高く、旧作の方がコストが安い。Netflixはその独自のRecommendation Engineによって、より旧作を薦めることで利益率を高めているが、BlockbusterのTotal Accessのプランに引かれて加入する人たちというのは、1.新作をすぐに見たがる人、2.1枚でも多くレンタルしたい人、というビジネスをする側からすれば最も利益率を下げる顧客層である可能性が高い。Netflixにしてみれば、最も歓迎しない顧客層を逆にBlockbusterが持っていってくれたということで、加入者数で差を縮められても利益率では差を広げることができるということになる可能性もある。

以前から予告されていた通り、きのうNetflixがオンライン戦略の発表をした。AppleAmazonが相次いで映画のダウンロード販売に参入してきた中で、Netflixがどう出てくるかが注目されていたわけだが、結局蓋を開けてみると非常にローキーな内容であった。

提供されるのは、加入者が追加料金なしで利用することができるストリーミングのサービス。月額$5.99のDVDレンタルプランの加入者なら毎月6時間、$17.99のプランの加入者なら毎月18時間と言った具合にストリーミングできる時間の上限が設定され、その時間内であればいつでも1000タイトルほど用意されているストリーミング用のタイトルを自由に視聴することができるというもの。コンテンツをダウンロードしてハードディスクに保存したり、DVDに焼いたりといったサービスは提供されていない。

おそらくこの計画はBlockbusterがTotal Accessをアナウンスする以前から準備されていたものだろうが、結果的にBlockbusterがinstant gratification(すぐに欲求を満たしてくれること)をウリにしているのに対抗するサービスとして位置づけることができるものになっている。

AppleAmazonのようなダウンロードサービスを提供しなかったのは、個人的には正解だったと思う。現状のアメリカのブロードバンドの帯域や、ダウンロードに対するスタジオ側のライセンスの制約などを考えると、中途半端なサービスで顧客の不満を買うよりも良かったのではないだろうか。いずれ環境が整えばサービスを充実させる予定とのことなので、第一歩としては必要十分だろう。

  • キオスクによるDVDレンタル

NetflixとBlockbusterが戦いをひろげる一方で、まったく違うところでDVDレンタルのビジネスが拡大しつつある。これまでにも何回かキオスクの話は取り上げてきたが、ここにきてますます広がってきている模様。

最大の魅力は1日$1という値段と、手頃さだろう。マクドナルドを中心に展開してきたRedboxは既に2000箇所以上で稼動していて、向こう数年間でさらに倍増させる計画。食料品スーパーを中心に展開するTNR Entertainment社による"The New Release"というレンタルキオスクも、2007年の早いうちに2000箇所を超え、いずれは2万箇所の設置を計画している。

これらキオスクはタイトルが70−100タイトルと限られているので、直接NetflixやBlockbusterのオンラインのビジネスを脅かすものではないかもしれないが、Blockbusterや他の小規模のビデオレンタル店舗の中にはすでにある程度の打撃を受けているところがあるようだ。

DVDレンタルもこうしてオプションが増えて便利になってくるにつれ、ますますオンラインでのダウンロード販売の魅力が薄れてくる。Netflix CEOのReed Hastingsは、DVDビジネスはまだ向こう10年は安泰だと発言していたが、さもありなんという感じだ。

注目株のその後

4月5日のエントリーで、いくつか注目している株を取り上げたが、8ヶ月経った現在どうなっているかをみてみよう。

  • Best Buy

4月に$58くらいだったのが、今日現在で$48台。特に最近の動きでは、感謝祭セールのプロモーションが利益率を圧迫したことから急激に値を下げている。もっとも、今年のホリデーシーズンが始まる前から、WalMartが早々にディスカウント宣言をしていたので、今回のアナウンスは予測できたものではあった。売り上げそのものは順調に推移しているので、長期でみればそれほど不安になることはないと思っている。このままクリスマスに向けてさらにディスカウント合戦が続くようであれば、さらに下げる可能性もあるが、そこは逆に買い増しのチャンスかもしれない。
同業のCircuit Cityはもっと悲惨。今朝3Qの業績発表があったのだが、経常利益が予想外のマイナスに転じたことで株価は16%以上も急落。もともと同社の利益の中身がextended warranty(延長保証)頼みという非常に心もとない内容だったので、この感謝祭セールでの値引き合戦のインパクトをもろに受けた格好となった。

  • TiVo

EchoStarとの訴訟はまだ最終的な決着がついていない。4月14日のエントリーで、一時的な値上がりに関して疑問を呈したが、案の定その後下がり続け、一時的なアップダウンはあったものの現在は4月の高値から40%ほど安い$5.30台の値をつけている。この8ヶ月の間にCableCARDを搭載したHD対応のSeries 3を発売したり、パーソナルビデオを取り込んでシェアすることのできる機能をアナウンスしたりと、いろいろ動きはあったものの、根本的な収益構造の改善につながるようなものではない。中長期で考えたときに、特許訴訟以外の部分での成長のシナリオは全く見えず、今後も株価は下落傾向を続けるのではないかとみている。

4月の時点で$31で、既にかなり高くなってしまっていると感じていたのだが、その後も勢いは衰えず現在の株価は4月から70%以上も高い$56台。世界中にキャッシュサーバーを所有し、トラフィックコントロールをすることで高速なサービスを実現する同社のプラットフォームは、基本的にはインターネットを使ったサービス(ビデオやソフトのダウンロードに限らず、ありとあらゆるインターネット上のサービス)の成長が、パイプのインフラの成長を上回っている限りは需要が増え続ける。
アメリカではVerizon、AT&Tなどの電話会社が競って光ファイバーのインフラ投資を続けているが、これは帯域のほとんどを自社のIPTVサービスに使うために確保するためのもので、オープンなインターネットのパイプそのものがこの恩恵を全て受けられるわけではない。当面はAkamaiの成長は疑う余地はないのだが、この成長がどこまで現在の株価に織り込まれているかの見極めが勘所。ちょっとした業績の不振が株価の急落に繋がるリスクはあるが、まだ持っていてもいいだろう。

映画のダウンロードサービスのその後

ここしばらく海外を飛び回っていたので、最近はそれほどアメリカ国内の動きを追いかけていなかったのだが、一段落したのでちょっと最近のニュースをさらいながら、7月27日のエントリーで書いた予測の、4ヶ月経った時点での経過を追ってみる。

  • Movielink/CinemaNow

両社ともその後特に大きな動きはないが、CinemaNowが9月に初めてパッケージのDVDリリースの日と同時にDownload to burnもサービスを開始するという、いわゆる「Day and Date」というのをやった。しかも値段はパッケージのDVDよりも安い$9.99。タイトルは「The Fast and the Furious: Tokyo Drift」で、比較的若年層をターゲットとした映画だったので、Download to burnのサービスを抵抗なく使うであろうtech-savvyな客層とマッチしたタイトルだったのではないだろうか。これまでダウンロードサービスを提供してきたサービス業者の不満は、DVDのリリースウインドウに対してダウンロードがいつも遅れていることだったので、このウインドウがなくなって同時に発売ができるようになったということで、どの程度販売が伸びるのかというのが注目されていた。
結局CinemaNowからは公式な数の発表はなかったのだが、Video Businessの記事によると、どうやらその数は数百ダウンロード程度だったということで、これはまったくの期待外れに終わったわけだ。CinemaNowでダウンロード販売が振るわない原因は少なくともウインドウではないということがわかったのが収穫か。

  • アップル

9月の映画ダウンロードサービス開始から1週間で12万5千ダウンロードを達成したというのは9月20日のエントリーでも触れたが、その後ややペースは衰えたものの、8週間で50万ダウンロードを達成したという。NPDのデータによると、CinemaNowやMovielinkでダウンロードされている映画の数は、トップタイトルでも200から400ダウンロードというレベルなので、これらに比べるとさすがにiTunesの数は桁違いということになる。現在はおそらくは週に5万ダウンロードくらいのペースで推移していると思われるが、この数字をパッケージのDVDと比べるとどうだろう?

Variety誌の10月の記事によると、今年第3四半期までのディズニーのDVDをはじめとするホームエンターテインメントにおけるシェアは13.7%。仮にディズニー以外のスタジオの映画もiTunesでオファーされていたとして、週のダウンロードが約36万。これは年間にすると約1900万ダウンロードということになる。ちなみに昨年のパッケージDVDの出荷総数は約16億枚。今年も同程度の出荷数と仮定すると、かなり乱暴な換算ではあるがダウンロードがパッケージDVDに対して1%程度の数ということになる。

サービス開始当初の数字としてはまずまずと言っていいのかもしれない。今後どの程度他のスタジオのサポートを得られるのか、そしてどこまで数字が伸ばせるのかを引き続き注目していくことにしよう。

アップルに先駆けてUnboxと呼ばれるダウンロードサービスを開始したAmazonだったが、こちらは全くの不発だった模様。OSがWindows XPにしか対応していないとか、専用のソフトに技術的な問題があったりとかいろいろネガティブな話題ばかり振りまいていたようだが、本質的にはブランド力でアップルに負けているということだろう。しかも、サービス開始前にいろいろ報じられていたようなパッケージDVDの販売と連携するよな売られ方をするわけでもなく、またUnboxのページそのものがAmazonのDVDのページとは全く独立のつくりになっていて、AmazonにDVDを買いに来た客がサービスに気付かないだけでなく、Unboxのサイトに来た客にしてもRecommendationなどがDVDと連動しているわけでもないようなので、全くこれまでのAmazonの資産が生かされていないお粗末なサービスになっている。
どう考えても本気で取り組んでいる様には見えないのだが、果たして今後どこに向かっていくのだろうか?

  • WalMart(とその他リテールキオスク)

最近の動きといえば、キオスクにダウンロードした映画をDVDに書き込みができるようにするCSSの改定が承認されたこと。WalMartでは来年のサービス開始に向けて準備を進めているが、一方で最近はDVD書き込みではなく、DVDレンタルのキオスクがあちこちに増え始めている。

2月26日のエントリーで、マクドナルドのDVDレンタルキオスクについて書いたが、同様のキオスクが最近では食料品スーパーや、ドラッグストア、WalMartにも広がりつつある。家の近くのSafewayという食料品スーパーにもキオスクが設置されているのだが、Safewayのキオスクでは50%以上の客が1日でDVDを返しに来ると言う。アメリカでは毎日食料品を買いにスーパーに行く人は稀なので、SafewayにしてみればDVDレンタルがあることによって、より頻繁に客に来店してもらうことができるわけだ。

DVDレンタルのキオスクなら、DVDに焼く時間を待つ必要がないし、1日$1という値頃感もあるので、最新のヒットタイトルに限ってみればレンタルキオスクの方がよっぽど魅力的だ。

こちらは特にダウンロードに関する動きはまだないが、ライバルのBlockbusterとの戦いはヒートアップしている模様。Netflixの後塵を拝しているBlockbuster Onlineだが、11月にTotal Accessというオンラインと実店舗でのレンタルを組み合わせたプランを発表し、実店舗を持つことをNetflixとの差別化につなげようとしている。これはオンラインでレンタルしたタイトルを店舗に持ち込んで返却してもいいというもので、その場で新しいタイトルを借りるか、店舗で返却した時点でオンラインの次のタイトルをすぐに出荷してもらうかを選ぶことができるというもの。Netflixの場合は返却したタイトルが配送センターに送られるまでの1日のタイムラグがあるので、より多くのタイトルを借りることができるというわけだ。
おそらくはこのアドバンテージをNetflix加入者にプロモートする目的で、Blockbusterは現在期間限定で、Netflixの封筒をBlockbusterの店舗に持ってくると、Blockbusterの店舗会員登録(無料)と引き換えにDVDを1タイトル無料でレンタルというキャンペーンをやっている。しかし、そもそもNetflixの加入者は借りたタイトルを返しに来るのが面倒くさかったり、Late Feeを取られるのがいやでNetflixに入っているわけだから、このプロモーションがどの程度効果的なのかはおおいに疑問ではある。

ジョブスマジックもこれまでか?

先週アップルがiTunesでの映画のダウンロードサービスと、新型iPodを発表した。
この発表そのものは、あまりにも以前から噂されていた通りのままで、実に面白みのないものであった。個人的には6月22日のエントリーで書いた通り、スティーブ・ジョブスなら何か驚くようなことをやってくれるのではないかとちょっとだけ期待していたのだが、やはりさすがのジョブスをもってしても、映画のダウンロードに関してはこれが精一杯だったのだろう。アップルの発表形態としては異例とも言える将来のデバイスの話、すなわちiTVについてジョブスが最後に触れたが、おそらくこれがなければあまりにもつまらない発表でしかなく、苦し紛れに将来のデバイスの話をせざるをえなかったのではないだろうか。

アップルのビジネスモデルを考えたとき、少なくとも音楽に関してはiTunes Music Storeは利益の源泉ではなく、これを使うiPodというデバイスの方が利益の源泉であった。ビデオに関しても同様のモデルなのだとしたら(Disneyからの卸値がいくらなのかはわからないが、値段を見る限りそのように見受けられる)、今回発表した映画のダウンロードのサービスによって、アップルはより多くのデバイスを売らなければならない。果たしてこのiTVがその答えなのであろうか?

このiTVと呼ばれるデバイス、マックからテレビに映像を飛ばすためのものだが、コンセプトそのものはマイクロソフトのMCX(Media Center eXtender)である。で、このMCXの方はアメリカではもう数年前から売られているのであるが、ほとんど売れている気配はない。MovielinkやCinemaNowなど、既存の映画のダウンロードサービスを使ってMCE PCにダウンロードしたものは、MCXでテレビにつないで見ることができるので、Solutionとしては今回のアップルの発表は全くの後追い。提供される映画も、今のところDisneyのものに限られているから、サービスの観点からも見劣りがするわけで、このiTVが売れるという理由が、アップルブランドであるという以外に見当たらない。

Video iPodはどうか?4月3日のエントリーでも触れたが、ダウンロードされたビデオの大半は、iPod上ではなくコンピューター上で見られているという。今回の映画の発表以前にアップルはテレビ番組のダウンロードサービスをしばらく提供してきたわけだが、iPodという携帯型デバイスで鑑賞するというスタイルを考えると、むしろ2時間の映画よりも30分や1時間のテレビ番組の方が適しているはずだ。であれば、映画のサービスを開始したところで、それが起爆剤となってVideo iPodがもっと売れるようになるのかというと、これも甚だ疑問である。

考えられるとすれば、まだ何か隠し玉のデバイスがあるのか、あるいはダウンロード販売そのもので儲けようとしているのか、どちらか。しかし後者は考えにくい。

こちらの記事
iTunes StoreでのDisney映画販売、1週間で100万ドルに
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0609/20/news041.html
にはちょっと驚いた。1週間足らずで12万5千ダウンロードというのは相当な数であることは間違いない。しかし実際に売られている映画の値段を見れば納得できるものはある。例えば現在No.1にランクされている「Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl」。現在この続編である「Dead Man's Chest」が劇場公開されて11週間経つが、未だに全米1000スクリーン以上で上映され、既に$400 million以上の興行収入を上げている化け物映画となっている。この数字は歴代の劇場公開映画の興行収入ランキングで既に6位に入るほどのヒットで、話題性という点においてはこれ以上のものはない。その映画のオリジナルバージョンであるという追い風に加えて、このダウンロードの値段が$9.99。現在WalMartではこのDVDは$13.11、CinemaNowでは$14.95という値段がついているから、どこよりも安く手に入るということになる。他のランク入りしている映画の値段を見ても、軒並みWalMartでのDVDの値段よりも安くなっている。

もしアップルがダウンロード販売そのもので儲けようとしているのであれば、ディズニーからよほど安い卸値でタイトルを買っていることになる。そして、おそらくこれがディズニー以外のスタジオのサポートを得ることができていない最大の理由でもあるだろう。スタジオにとってみれば、DVDよりも安い卸値で売ったタイトルが、市場でDVDよりも安く売られ、結果としてDVDで得ることができるはずだった儲けを逸することになるのであれば、売る理由がないのだ。

上出記事中でディズニーCEOのRobert Igerが、これらダウンロード販売はDVDの販売に影響していないと言っているが、果たしてその根拠はどこにあるのだろうか?いくらスティーブ・ジョブスがディズニーの取締役に名を連ねているとはいえ、この話はディズニーにとってもプラスとなる話でなければいけないわけだから、Robert Igerは株主やアナリストに対してそう言わざるを得ないのは理解できる。しかし、今回iTunesからディズニーの映画をダウンロードした人たちのうち、iTunesで売ってなかったらDVDを買っていたであろう人は皆無であると、どうして言い切れるのか?

この話どう考えても、アップル・ディズニーそれぞれにとっての勝ちのシナリオが見えてこない。

電波帯域のオークションから脱落する衛星業者

FCCによる電波帯域の使用権のオークションが8月8日に始まった。今回リリースされたのは、これまで軍隊や警察で使われていた周波数帯域で、過去最大規模の帯域がオファーされるオークションとなる。

今回のオークションには、従来の携帯電話サービス業者だけではなく、衛星放送業者、ケーブル業者なども名乗りをあげている。

トリプルプレー(テレビ・インターネット・電話)真っ盛りのケーブル・通信業界にあって、一番危機感を募らせているのは衛星放送業者のDirecTVとEcho Star。衛星を使ったインターネットのサービスにおいて両社が協力したことは6月14日のエントリーでも触れたが、今回のオークションにも共同で参加している。狙いはやはりWiMaxを使ってのブロードバンドサービスの提供だろう。

だが昨日火曜日の時点で、どうやらDirecTV/EchoStar組は既にオークションから脱落してしまったらしい。

Satellite TV groups fade in auction
http://seattlepi.nwsource.com/tv/1401AP_Airwaves_Auction.html

このオークションがはじまった初日の時点では、衛星業者組がトップビッダーとなっていたのだが、その後オークションが進むに従ってVerizonなどの電話会社がハイビッダーとなり、きのう火曜日のラウンドが終わった時点で、全米をカバーするのに必要な帯域を買うのに必要な値段が$4 billionを越えてしまったのである。もともとDirecTVマードック氏は$1 billionくらいの投資をしてワイヤレスのネットワークを構築すると以前から発言していたのだが、帯域を買うだけですでにこの4倍の値段になってしまったわけだ。

しかし$4 billionとはいっても、ケーブル業界が過去10年間インフラ投資に費やした$100 billionに比べれば微々たるもの。この$100 billionというのは、主として回線のデジタル化に伴う投資だったわけだが、昨今のComcastTime Warner Cableの好調な業績を支えているのはこのインフラのデジタル化で可能になった電話などの各種サービスである。これに加えてさらにワイヤレスのインフラにも積極的に投資をしようとしているケーブル業界の目は、明らかに電話会社に向いていると言っていいだろう。

ますます旗色の悪くなる衛星放送業者。マードック次の一手はいかに?