ケーブルのア・ラ・カルトはロングテールの逆を行く?

FCCのChairmanであるケビン・マーティンが、昨年ケーブルテレビのア・ラ・カルト化を支持する発言をしたことで、最近いろいろな動きがあった。

ア・ラ・カルト化というのは、つまり視聴者が自分の見たいチャンネルだけを選べるシステムのことである。通常ケーブルテレビや衛星放送に加入すると、いろいろなチャンネルがバンドルされたパッケージを選ぶことになる。例えばESPNを見たいのであれば、ESPNだけではなく、他の興味のないチャンネルまで含まれるExpanded Basicパッケージを選ばなければいけない、といった具合だ。

消費者団体が問題にしているのは、これによって視聴者が自分の見ないチャンネル分までお金を払わされているということと、子供に見せたくないようなチャンネルまでバンドルによってついてきてしまうという点。

この話は過去にも議論されたことがあった。2004年にはこの件に関して調査報告書が提出されたが、この時はア・ラ・カルト化によって、平均的な視聴者の負担は増えるという結論が出され、結局見送られた。これはケーブル業界側の意見を支持するもので、ア・ラ・カルテ化によりケーブル会社がコンテンツプロバイダーに払うレートが上昇し、それを積み上げていくと結局視聴者にとっての負担も上がるというものだった。

しかし昨年FCCのスタッフがこの調査を精査したところ、いくつか仮定に誤りがあることが判明した。これらを見直すと、実際にはかなり多くの視聴者の負担が減ることになることがわかったのだ。

もちろんケーブル業界がこれをだまって認めるわけがない。さっそくTime Warner Cable、それにComcastと大手がそろってFamily Tier Packageをオファーすることにした。これは子供に害のあるチャンネルを外したパッケージで、とりあえずこれをオファーすることによって、見せたくないチャンネルまでついてくるという問題は回避できる。

しかしこれは問題の本質ではない。ケーブル業界もア・ラ・カルト化によって視聴者の負担が減ることはおそらくわかっているはずだ。ケーブル業界にとっては収入が減ってしまうのだから、やりたくないのは当たり前である。だが現在のコンテンツ流通の流れは明らかにアンバンドルの方向に行っている。音楽業界がいい例だろう。アルバム販売というバンドル手法は、インターネットというメディアの出現で破壊されてしまった。DVRによるタイムシフト、またオンデマンドで個々の番組をさまざまなデバイスで視聴できるオプションを手に入れつつある消費者が、これからもずっとケーブルのバンドルに高い金を払わされるのをだまって我慢しているとは思えない。

音楽の場合はバンドル販売のビジネスモデルが破壊された代わりに、ロングテールのビジネスモデルが成立した。ニッチな音楽にも対等な販売チャンスが与えられることになったのだ。しかしテレビのチャンネルのア・ラ・カルト化は、実はまったく逆の現象をもたらす可能性があると思っている。

音楽とテレビのチャンネルで一番違ってくるのは値付けのシステムだろう。音楽はヒット曲も、そうでない曲も一律$.99。しかしケーブルチャンネルの場合はそうはならない。おそらくチャンネルの人気と値段が比例することになる。こうなると、ますます立場を強くするのがESPNなどの人気チャンネルであるのに対し、テールの方のニッチなチャンネルはこれまで以上に生き残りが難しくなる。

おそらく今年中にア・ラ・カルトに関しては何らかの動きがあるだろう。引き続きこのブログで動きをウォッチしていこうと思う。