The National Showから −ケーブルのインフラについて

今週は年に1度のケーブル業界のトレードショーであるNCTA The National Showに出席するためにAtlantaに来ている。きのうからいくつかのセッションに出て話を聞いているのだが、今朝のセッションが一番面白かったので、ここで聞いた話を中心に書いてみようと思う。

このセッションのタイトルは、"Tech Talk: Cable CTOs on What's Now, What's New and What's Next" パネルとして壇上に上がっていたのはComcast, Time Warner Cable, Cox CommunicationsのUSのケーブル大手3社、それにカナダのRogers Cable Communicationsの合わせて4社のCTO達。モデレーターはMultichannel Newsというケーブル業界紙のコラムニストであるLeslie Ellis氏。

ちなみに、Leslie Ellis氏のコラム、記事はいつもわかりやすく、的を得ていて読みやすい。Multichannel Newsは年間購読が必要だが、同じ会社から出しているブロードバンド情報誌CED(Communications Engineering & Design Magazine)にも寄稿していて、こちらは誰でも見ることができる。以下のリンクは昨年の12月の記事だが、ケーブル・ブロードバンド業界のテクノロジーに関するキーワードを簡潔に解説している記事で、この多くを彼女が書いているので、興味のある方はぜひご一読を。
http://www.cedmagazine.com/article/CA6287785.html

さて、こうしたトレードショーやカンファレンスにおけるパネルセッションで話が面白くなるかならないかを決めるのは、一にパネルの質、二にモデレーターの質だと思っているのだが、このセッションに関してはどちらも一級だったこともあって、話は多岐に渡って非常に面白いものになった。(おそらくはモデレーターであるEllis氏が、パネリストたちと率直なコミュニケーションができる関係にあることに拠るところが大きいのだろうが)

以下今回はケーブルのインフラについての話題。

ここ数年のHDチャンネルの増加、VODの拡充、ブロードバンドの高速化、さらにはIP電話サービスの拡大などに伴い、ケーブルが使える帯域がますますきつくなってきている。こうした状況の中、ケーブル業界は帯域をセーブするためにいろいろな技術開発をしているが、その中のひとつがスイッチング。Time Warner Cableでは既にこれを3つのシステムでテストしていて、今年中にこれを4つから6つにまで広げていく。Coxも今年中に少なくとも2つのシステムでテストをしていくという。

このスイッチングというのはデジタルチャンネル全てをパイプ上に垂れ流しにする代わりに、ユーザーからリクエストのあったチャンネルのみをヘッドエンドから送信する方式。ほとんど見られるようなことがないニッチなチャンネルは、まとめてスイッチングにしてしまうことでかなりの帯域をセーブすることができる。実はこれは3月12日のエントリーでも触れた、AT&TのIPTVと全く同じ概念である。スイッチングはVODでは既に使われており、理論的にはチャンネル数の制限がなくなる。AT&TはIPTVの持つアドバンテージの一つとしてこの話をするが、これは技術的にはケーブルでもできることである。

最近ニュース等で電話会社のIPTVやファイバー敷設計画が騒がれることに関して、Time Warner Cable CTOのMichale LaJoieが面白いコメントをしていた。
「電話会社が光ファイバーの話をするのは、それ以外にケーブルと違うことが何もないからだ。」

Digital Hollywoodにおいても、Verizon、AT&Tの人が彼らのアドバンテージについて聞かれたときに、真っ先に口に出てきたのは「コスト」であった。中身が違わないのであれば、あとは値段で勝つしかない。しかし、値段で勝負しようにもゼロからはじめなければいけない彼らにはコンテンツホルダーに対する価格交渉力がない。少なくとも、インフラ投資を終えてある程度の規模の顧客ベースを掴むまでは、おそらく赤字を垂れ流しながらの事業運営になるのは避けられないだろう。

Verizonが選んだコストのかかるFTTH方式と、AT&Tが選んだ近所までファイバーを引いてくる方式FTTN/FTTCにはそれぞれ一長一短があるが、これに関してのCox CTO Chris Bowickのコメントが興味深い。

昨年ハリケーンによって甚大な被害がもたらされたNew OrleansはCoxのマーケット。彼らのケーブルのインフラは壊滅状態に陥ったので、どうせ作り直すのならということであらゆる方式のシミュレーションを行った。FTTH、FTTC、それにこれまでのケーブルの方式であったHFC(Hybrid Fiber/Coax)。コストパフォーマンスを比べたところ、結局これまでのHFC方式が一番効率的だという結論に達したという。

「電話会社が優れているのはWashingtonにおいてだけだ。」

これは最近の電話会社に有利な法改正の議論を皮肉ってのこと。

話はもう一方の競合である衛星放送にも及んだ。Ellis氏が「DirecTVは全米で1500のHDチャンネルを立ち上げるべく新しい衛星を打ち上げているが、これにはどう対抗するのか?」と質問したところ、これまたTime Warner CableのMichael LaJoie氏が一蹴。

DirecTVがHDチャンネル数の話をするのは、それしか威張れることがないからだ。彼らにはブロードバンドもない。電話もなければVODもない。」

DirecTVが1500チャンネルと言っているのは全米のローカルチャンネル含めた合計の話。一つの地域でそれだけチャンネル数があるわけではない。

「同じ尺度でケーブルでもチャンネル数を数えたら、3000チャンネルにはなる。」

このCTO達のセッションの後に、General SessionでComcastTime WarnerのCEOが壇上に上がって話をしていたのだが、彼らにも一致していたセンチメントは、「ケーブルの力は過小評価されている」というもの。2月6日のエントリーでも触れたが、ComcastTime Warnerの株は低迷を続けている。最後にこの二人のCEOが株価に関して聞かれた時のコメントを紹介しよう。

Time Warner CEO Richard Parsons: 「市場はGood NewsとBad Newsには反応するが、Unknownからは遠ざかる。いずれ不安が解消されれば投資家は戻ってくるだろう。」

Comcast CEO Brian Roberts: 「株価チャートの画面はしばらく消しておく。黙って実行あるのみ。」