ワーナー・ブラザーズがBitTorrentでコンテンツ販売

ワーナー・ブラザーズが所有する映画およびテレビ番組を、BitTorrentを通じで販売するというニュース。
Warner Bros. to Distribute Films on Web
http://news.yahoo.com/s/ap/20060509/ap_en_bu/peer_to_peer_movies;_ylt=AmkRW4hRREDsdaGzCvS6uTQjtBAF;_ylu=X3oDMTA5aHJvMDdwBHNlYwN5bmNhdA--

映画に関しては、DVDのリリースと同時に同程度の価格で、テレビ番組に関しては$1程度になるという。ワーナー・ブラザーズは、BitTorrentを通じて違法コピーをダウンロードしているユーザーに合法な手段を提供することで、違法ダウンロードの5−15%でも合法なユーザーに変えられればと目論んでいるらしい。

これはおそらく音楽業界がiTunesで成功している例があることから、合法なダウンロード手段を提供すればある程度は乗り換えてもらえるだろうと考えているのだろうが、そんなにうまくいくとは思えない。

映画のダウンロードに関しては4月3日のエントリーでMovielink、CinemaNowの例を取り上げたが、今回のワーナーの話も同様にDVDへ焼くことはできても、DVDプレーヤーで見ることはできず、ダウンロードしたPCでのみ視聴が可能というもの。これでは消費者にとってはリテールのDVDよりもおそらくは高い値段を払ってわざわざダウンロードするメリットが全くないわけで、そこへ持ってきて5%から15%の違法ユーザーを乗り換えさせることができれば、というのはありえない話。違法ダウンロードがされるのは、それが無料で欲しい映画を手に入れる手っ取り早い手段として存在するからであって、コンテンツを手に入れる上で他の手段に比べてダウンロードが便利だからというわけではない。違法行為をやめようというユーザーなら、わざわざ制限付きの合法ダウンロードに乗り換えるのではなく、そこらのお店でDVDを買ってきた方がよほど経済合理性があるのは明らかだ。

iTunesでの音楽ダウンロードが成功した理由はいくつかあるが、一つはRIAAが違法サイトのシャットダウンに成功したことと、エンドユーザーを積極的に直接訴えることで、ユーザーが違法行為を止めようという動機付けをさせたこと。もう一つは、1曲ずつ購入できるというダウンロードならではの購入手段に経済合理性があったから。つまり合法的にある曲を手に入れたいと思った時に、従来のようにCDのアルバムを$10程度払って購入するのに比べて、欲しい曲だけ$1で買った方が安かったからである。

インターネット上でのコンテンツダウンロードビジネスを考える時に、ここが映画と音楽の一番の違いであると言ってもいいかもしれない。映画は1本丸まるがコンテンツであり、音楽のアルバムの様な冗長さがもともとないのだ。

MPAAとハリウッドのスタジオが本気で違法ダウンロード行為を止めさせたいと考えているのなら、このワーナー・ブラザーズのようなやり方や、Movielink、CinemaNowで提供しているようなやり方は考え直すべきだ。DVDタイトルのこれまでの売り上げを見れば分かる通り、多くのユーザーはコンテンツを所有する対価として、喜んで$10-$20くらいDVDにお金を払ってくれるのだ。パッケージのDVDよりも制限の多いコンテンツの売り方を考えるよりも先に、まず多様化するユーザーの視聴スタイルに対応できるようにパッケージDVDの内容を充実させるべきだ。例えばポータブルデバイスに簡単にコンテンツが転送できるよう、小さい画面向けにエンコードしたファイルを入れる。そのファイルをネットワーク経由で家庭内の他のデバイスや外出先からアクセスを許すような仕組みを作る。DVDが売れなくなるのを心配するのなら、DVDそのものを魅力的にすることを考えるべきだ。