衛星ラジオ Sirius の賭け

zakm2005-12-15

Is Stern worth his millions?
Howard Sternと言っても日本人にはあまり馴染みがないかもしれないが、アメリカのラジオのパーソナリティーとしては不動のNo.1の人気を誇り、彼のトークショーは全米で800万から1200万人のリスナーがいると言われる。このHoward Sternと$500millionという巨額の契約を結んだのがSirius Satellite Radioである。

現在アメリカではXM Satellite RadioとSirius Satellite Radioの2社が加入者獲得競争を展開している。衛星ラジオはここ数年で急激に加入者を伸ばしてきた。両社とも月額$12.95で、あらゆるジャンルを網羅するコマーシャル無しの音楽番組から、スポーツ中継、トーク番組など合わせて百チャンネル以上の番組をオファーしている。2005年末時点での両社の加入者見込みは、XMが600万人、Siriusが300万人程度となっており、XMがリードしている。

しかし、なぜSiriusは$500millionという巨額の契約に踏み切ったのか?

理由は衛星ラジオというメディアの特殊性である。
テレビの場合、ケーブルに加入しても衛星放送に加入しても、たいてい同じ番組が見られる。しかし衛星ラジオの場合はこれが全くと言っていいほど当てはまらない。
両社に共通しているのは、コマーシャル無しの音楽番組があることくらいで、その他のスポーツ中継、トーク番組などは軒並みExclusiveである。例えば、どうしてもNFLの中継が聞きたいということであればSiriusしか選択肢はないし、メジャーリーグの中継が聞きたいとなるとXMしかない。こういった競争環境では、Exclusiveのキラーコンテンツが差別化のカギになってくる。

そういった意味では、15年間という長期に渡ってラジオ界の頂点に君臨してきたHoward Sternというコンテンツは、追う立場にあったSiriusにとって何としてでも手に入れたいものであったのだ。

ただし、これでSiriusが順調に加入者を伸ばし続けることができるとは限らない。

最近の加入者増を牽引しているのが、車載受信機の新車へのオプション搭載である。XM、Siriusとも大手オートメーカーと契約し、加入者からの収入を一部オートメーカーに還元することで、新車への搭載を促進させている。

しかし、この新車搭載に関しては、ライバルのXMが2005年の新車販売数でシェアナンバーワンのGMと、ホンダとのExclusive契約を獲得している。両者を合わせたシェアは35%。Siriusもフォード, ダイムラークライスラーなどとのExclusive契約を獲得しているものの、入口で35%の見込み客をはじかれてしまうのは痛い。

もう一つの懸念は、徐々に増えつつあるiPod対応のカーステレオの新車搭載である。
既にBMWメルセデスボルボなど高級車の一部の他、トヨタの若者向けブランドのScionにも搭載が始まっており、ホンダ、ニッサンフォルクスワーゲン等のメインストリーム車への展開も決まっている。PodcastによりトークラジオもiPodで聞けるようになってきており、iPodはラジオ業界にとってますます脅威になりつつある。
今年の初頭にSiriusのMel Karmazinは、AppleSteve JobsにSiriusをiPodに組み込まないかと話を持ちかけたことがあったが、断られたことを認めている。

Siriusの株価についても懸念はある。
現在のSiriusのMarket Capは$9.3billionであるのに対し、ライバルのXMは$6.7billion。加入者数だけで見ると、XMの方がSiriusの倍なのにである。

さらにこれをテレビの衛星放送業者と比べてみるとどうなるか。
アメリカだけで衛星放送を展開するDISH Networkを持つEcho Star Communicationsの加入者が、Siriusの4倍の約1200万世帯に対して、Market Capが$12billion。さらにSiriusのサービスは月額$12.95なのに対して、衛星放送は$50近くなるのにである。

もちろん、単純に加入者数とMarket Capだけでの比較が妥当だとは言えないが、それにしてもちょっと高すぎるのではないかという気がする。