返品天国アメリカにも変化の兆し

アメリカに来てまず驚いたことと言えば、お店で買ったものが簡単に返品できてしまうことである。しかも未使用品、未開封品だけではなく、買ってしばらく使い倒したものまで。

昔留学していたメリーランドの大学の学生寮での話。
ルームメイトのMはニューヨークから来ていたので、毎年夏休みになると実家に帰っていた。ラジカセは学生の必需品。ニューヨークの実家に自分のラジカセを置いてきたという彼は、前の年の秋学期が始まる前にメリーランドで新しいラジカセを買って、ずっとそれを使っていた。いよいよ春学期も終わり、夏休みを前にニューヨークへ戻ろうというとき、彼はそのラジカセをいともあっさり返品し、払った金額を全て取り返してしまったのだ。
商品の交換ポリシーに関しても驚かされた。Mが3年程毎日通学に使い、ボロボロにしてしまったバックパックを新品に交換すると言うので、一緒に店について行ってみた。3分ほどの交渉の結果、レシートも何もないのにあっさり全くの新品を手に入れてしまったのである。

Nordstromという中高級デパートチェーンがあるのだが、返品に関して有名になった話がある。

  • アラスカのNordstromの店舗に、ある客がタイヤを持ってきて返品したいと言ってきた。Nordstromではタイヤを扱ったこともなかったのだが、店員は返品に応じて返金した。

Home Depotという全米No.1のホームセンターのチェーンでも、この逸話に乗じた話がある。

  • ある日男性がタイヤを返品したいと言ってきた。Home Depotではタイヤを扱ったこともなかったので、店員はマネージャーを呼んだ。マネージャーは客にいくら払ったのかと聞いた。マネージャーはそのまま何も言わずに、客の言い値を返金した。「お客様はいつも正しい」ということを店員に常に思い出させるために、そのマネージャーは返品されたタイヤをカスタマーサービスのカウンターに吊るした。

以上の話の真偽の程はわからないが、こういった逸話が語られるほどアメリカの店では返品がまかり通っていたのである。

ところが、最近リテーラーによっては返品のルールを厳しくし始めているという記事を15日のWall Street Journalが掲載している。

例えばBest Buyの場合、返品にはレシートが必要。期限は買った日から30日以内で、パソコンやカメラなどの電化製品の場合は2週間以内。さらに箱が開けられている場合、15%の手数料を取るという。他のリテーラーにおいても、顧客データベースで返品歴を管理することで、極端に返品を繰り返す客がわかるようにするなどの対策を打っているところもある。

これまでリテール業界は、お客様第一、また競争の観点から、ある意味消費者を甘やかしてきたのではなかろうか。もちろん正当な理由による返品は受け付けられてしかるべきだが、上記のMの様なポリシーを悪用する例や、年に一回しか着ないハロウィンのコスチュームの返品を簡単に許したりするようなこれまでの慣行は、ある程度是正されるべきである。
寛大な返品のポリシーを悪用する一部の客によるコストは、ある程度商品の値段に既に織り込まれているわけで、返品ポリシーの見直しは、リテーラーとそこに商品を卸すメーカーにとってもメリットのある動きであるだけでなく、多少の不便を(日本の店と比べればそれでも寛大だが)強いられる消費者にとっても、いずれはそれが安い商品の値段となって返ってくる話なのではないだろうか。