DirecTVの戦略

zakm2006-01-10

ハリウッドレポーターの記事から。

マードック氏率いるメディアの巨人、News Corporation傘下のDirecTVが、Citigroup主催のカンファレンスで今後の戦略の話をしている。
http://www.hollywoodreporter.com/thr/article_display.jsp?vnu_content_id=1001808529

いくつか興味深い部分を拾って考えてみる。

一つ目はブロードバンド戦略。
これまでDirecTV、EchoStarの二つの衛星放送業者は自前のインターネットパイプを持たなかったので、ケーブル業者とのトリプルプレイバトル(ビデオ・インターネット・電話のサービスをバンドルで提供すること - ちなみに最近はこれに携帯電話が加わってきている)において、電話業者と提携せざるをえなかった。
電話業者の方は自前でIPTV事業参入を進めていたので、衛星放送業者の動きが注目されていたのだが、記事によればDirecTVは向こう数ヶ月以内にワイヤレスのブロードバンド戦略を発表するとのこと。DirecTVの投資も$1billion規模のものになるとのことで、かなり本格的なものになりそうだ。

ただし、これでケーブルと対等に戦えるというわけでもない。衛星放送の弱点の一つは双方向のパイプがないことにある。デジタルケーブルテレビやIPTVにおいては、家庭のセットトップボックスとヘッドエンドシステムとのコミュニケーションと、パイプの中で確保されている一定の帯域を使ってビデオ・オン・デマンドが可能になっている。ケーブルでNo.1のComcastは特にこれを衛星放送との差別化要因として力を入れている。
DirecTVも形の上ではVODができるようなことを言ってはいるものの、コンテンツはセットトップボックスのHDDにバックグラウンドで溜められたコンテンツに限られている。近々アナウンスされるワイヤレスのブロードバンドのサービスが、全米の家庭をカバーしながらVODの帯域を各家庭に確保したものになるとは思えない。

今のところはまだケーブルのVODも、普通の家庭で日常的に使われるまでは至っていないが、これが普及してくるようであれば、パイプを持たない衛星業者は別の点で差別化を図る必要が出てくるだろう。

二つ目はセットトップボックス戦略。
これまでDirecTVの受信機は全て販売されていた。つまり受信家庭がセットトップボックスを購入し、所有していた。一方でケーブルの場合は、ケーブル会社が所有するセットトップボックスを家庭がリースする形態を取っている。このリース形態では、特にDVR機能の付いた高機能のセットトップボックスが必要となる場合に、新しい加入者にとって初期費用負担がないうえに、故障したり新しい機能のセットトップボックスが出てくれば交換できるので、加入者をひきつける上でケーブルのアドバンテージになっていた。
記事によればDirecTVも3月からリースモデルに移行するという。

記事によるとこのリースモデル移行によって2007年にコスト削減が可能になるとのこと。おそらくDirecTVはこれまで販売という形態を取っていたにもかかわらず、ケーブルとの競争上リベートをつけることによって加入者の初期費用負担を軽減させてきたので、リベートがなくなって毎月のリース料収入が入る分が、セットトップボックスを資産として持つ負担を差し引いてもコスト削減につながるということなのだろう。

一方のケーブル業界の方は、現在これとは逆の方向に動こうとしている。現在ケーブル会社の設備投資額のうち半分以上を占めるのがセットトップボックス費用。FCCの圧力もあってケーブルはオープン化を進めており、既にCableCARDを搭載するテレビが多数売られている。いずれOCAP(OpenCable Application Platform)に準拠したセットトップボックスもリテールで売られるようになる。

今回のDirecTVリース移行の動きはケーブル業界にとってはプレッシャーになるはずだ。ケーブルにとっても加入者確保の観点からは、簡単にはリースモデルから離れられなくなるのではないだろうか。