ハリウッド映画のリリースウインドウ

ハリウッドのスタジオは、映画から収益を得るにあたってウインドウと呼ばれるシステムによって、収益を最大化する仕組みを作り上げてきた。まずは劇場で公開し、数ヵ月後にDVDでリリース。その後Pay-per-view、VOD、ケーブルのプレミアムチャンネル、そして最後に視聴者が無料で見ることができるネットワークテレビでの放送、といった具合だ。

ロードバンドの普及によって徐々にビデオのインターネット配信のサービスが出現しつつあるが、常に議論になるのがこのウインドウの話である。

ダウンロード販売という新しい流通形態をどこのウインドウに置くのか?サービス提供側からすれば当然早い方がいいので、DVDのリリースと同時にオファーしたい。スタジオ側からすれば、DVDリリースと同時のダウンロード販売によってトータルの利益がプラスになるのであればそれでいいのだが、問題はそう簡単にはならないところにある。

作品によってバラつきはあるが、トータルで見ると現在スタジオの収益の6割以上がDVDからである。12月22日のNetflixに関するエントリーでも書いたが、このDVDが儲かる構造は当分続くのではないかと思っている。

理由は値段と利益率の観点から明白だ。

DVDに対して消費者はたいてい$10から$20程度払っているが、この値段のうち大部分はスタジオの利益になっている。もちろんDVDを売る小売店にもマージンはあるのだが、彼らは自らのマージンを削ることでDVDを客寄せとして使っている。店に入ってきたお客さんに、他の利益率の高い商品も一緒に買っていってもらえればいいのだ。

一方でPey-per-viewその他ケーブルや衛星放送を通して送られるものは、消費者が実際に払う値段がDVDよりも安いうえに、配信するオペレーターのマージンも入ってくるので、自動的にスタジオの取り分も減る。

DVDがPay-per-viewその他に対して高い値段を付けられるのは、もちろんそれを消費者が所有できる、すなわち何回でも見ることができるし、パッケージメディアという特性からいろいろなデバイスで見ることが出来るからである。

この何回でも見ることが出来る、というのがミソで、実は1回しか見られなかったりする場合もあるにもかかわらず、消費者は喜んで高い値段を払っているのだ。例えて言うならスポーツクラブみたいなもので、会員になれば何回行っても同じ値段なのだが、実際には月に1回しか行かなかったりする。行かなかった分はそのままスポーツクラブの儲けになるのと同じだ。

もう一つパッケージメディアが他の形態に比べて有利なのは、それが消費者の所有欲を満たすことができるという点。これだけiPodが普及し、iTunesで曲単位で音楽が買えるようになった現在でも、音楽ソフトの売り上げの9割方はいまだにCDであることからも伺える。

さて、こうしたDVD有利な状況の中で、ダウンロード販売がDVDと同時にリリースというウインドウを獲得するためには、それがスタジオにとってDVD並みか、あるいはそれ以上の利益がもたらされることを示さなければならない。率直に言ってしまえば、これは当分不可能に思える。

現在変わりそうな気配があるのは、劇場公開とDVD発売までのウインドウである。以前は劇場公開から半年ほど待たなければいけなかったDVDのリリースが、徐々に早まってきている。この状況で不利な立場にあるのが劇場側だ。

この話についてはまた機会を改めて書くことにする。