ビデオを巡る電話会社とケーブル会社の戦い

株式会社情報通信総合研究所の発行するInfoCom Newsletterの最新版に、アメリカにおける電話会社とケーブル会社の競争に関して分かりやすくまとめられている。

熾烈化する米国での電話会社とCATV会社の競争
http://www.icr.co.jp/newsletter/topics/2006/t2006K003.html

競争の概要を理解するのにはいい記事なのだが、何点か注意が必要なのでコメントする。
まず、電話会社の優位点に関して。


Verizonは、伝統的なテレビとIPTVのハイブリッドのテクノロジを用いているので、多少異なるが、新AT&T等はインターネット方式のIPTVの展開を図っており、ケーブル会社の従来型のネットワークとは異なり、インターネット網を利用するため、低コストの利点がある

Verizonのハイブリッドのテクノロジというのは、2月6日のエントリーでも触れたが、光ファイバー上で従来のケーブルテレビ同様のQAM変調方式を使うものであるのに対して、AT&Tは純粋にIPを使ってビデオ伝送を行う方式。Verizonは各家庭まで直接光ファイバーを引き込んでいるためコストがかさんでいて、2005年の時点で家庭あたりのインストールコストが$1,200、さらに道路を掘ったり電柱にファイバーを敷設したりするのに$1,400もかかっている。
一方のAT&Tの方は、光ファイバーを直接家庭まで引き込むのではなく、近所のノードまではファイバーで、その先はDSLによる接続になっている。この理由によりAT&TはVerizonよりも低コストなのであって、インターネット網を利用するからではない。

また、インターネット網を利用するという言い方もやや語弊がある。VerizonやAT&Tの提供するIPTVサービスは、それぞれが所有するビデオ配信用のヘッドエンドシステムから、ビデオ用に帯域を確保されたパイプの上を流れてくるもので、その意味ではケーブルテレビと同じである。オープンなインターネットで、ベストエフォートで提供されるIPビデオとは全く異なる。

次にIPTVの優位性に関して。


IPTVはビデオ信号をインターネットで送信するので、顧客はTVチャンネル数に制限がなく、また、テレビにCaller IDを表示するなどの新機能も利用できるようになる。インターネットを利用するので、事業者や広告主も利用者の利用状況や性癖を把握でき、絞り込んだ効率的なマーケティングが可能となるとされている。そのためこれまでのCATVでは難しかった広告の効果測定もできるようになり、広告主も効果の高いターゲットを絞ったアプローチが可能になるので、広告のスポンサーが獲得しやすくなるとの見方もある。

TVチャンネル数に制限がないのは、AT&TのようにIPによるスイッチングを使った場合のことである。また、Caller IDの表示機能に関しては、Time Warner Cableなども既に同機能を提供し始めているので、IPTVだけにできることではない。
ターゲットを絞った広告や効果測定に関してもデジタルケーブルで双方向通信が可能になっている家庭では同様にできることで、ComcastのCEO ブライアンロバーツ氏は今後ここがComcastがフォーカスしていくエリアであると明言している。
http://www.digitaldivide.net/blog/TimKarr/view?PostID=7098

最後に事業免許に関して。
これは先週動きがあり、近いうちに議会に新しい法案が提出される模様。
http://www.multichannel.com/article/CA6314469.html?display=Breaking+News
これによると、電話会社は新しくビデオサービスに参入するにあたって、これまでのような全米に数千ある自治体とフランチャイズ交渉をしなくてもよくなる一方で、これまで事業を行ってきたケーブル会社の方は、その地域でライバルが15%のシェアを取るまではこれまで通りフランチャイズ免許を取得しなければならない、というもの。

電話会社はワシントンにロビイストを大量に動員して働きかけをしてきたので、その成果が実りつつあるということだろう。