インターネット上のショートビデオにまつわるビジネス
今回は前回ちょっと触れたインターネット上のショートコンテンツについて考えてみようと思う。
現在アメリカではやっているサイトの一つがYouTube。
http://youtube.com
ここ最近急速に人気を集めたサイトである。
以下Hollywood Reporterの記事
http://www.hollywoodreporter.com/thr/television/article_display.jsp?vnu_content_id=1002199882
によると、YouTubeのトラフィックは既にYahoo! Videoの倍、Google Video、AOL Videoの3倍にもなっているという。
YouTubeのコンテンツは全てユーザーの投稿によるもの。ほとんどのコンテンツが数分以内のショートビデオで、視聴者がランク付けをしたり、コメントを書いたりすることができる。また、ビデオを他のサイトのブログに貼り付けたり、リンクを友達に送ったりすることも簡単にできるようになっており、コミュニティを意識したつくりになっている。
考えてみれば、このようなコンテンツをコミュニティでシェアしたり、友達に教えたりといった使い方そのものは、これまでにずっとウェブ上でやられてきたものである。これまではそのコンテンツの中心がテキストベースの記事であったり、文章であったり、あるいは写真や音楽などであったものが、その延長でビデオになったというだけの話と言える。
これはビジネスモデルの観点からもおそらく同じで、コンテンツはトラフィックを集めるためのネタであり、そこでの広告収入によってビジネスが成り立つ。iTunesなどビデオコンテンツそのものを販売することを目的としたサイトとは、根本的に異なる点である。
そういう意味では、Google Videoがどれほどの収入を上げているのか、実に興味深いところだ。トップページに行くと、サイトの上半分はiTunes同様のビデオストア。下半分はYouTubeのようなユーザー投稿ビデオ中心に人気のビデオとランダムにピックされたビデオが見られるようになっているのだが、このサイトには全く広告がない。ユーザー投稿ビデオがどれほど売れているのか、うまくいっているのであればいずれ何かしらのアナウンスがあると思われるが、ざっとサイトを見ている限りでは売れそうなビデオは見当たらない。
おそらく当初の思惑通りにはいっていないのではないか。
もう一点、ユーザー投稿ビデオのビジネスにおける興味深い動きについて触れておこう。
YouTubeなどに投稿されるビデオは、建前上は投稿するユーザーが著作権に責任を持つことになっているので、コマーシャルコンテンツはあってはいけないのだが、実際には録画されたテレビ番組の一部を切り取ったものが結構見られる。
数週間前に話題になったビデオで、俳優のナタリー・ポートマンがNBCのSaturday Night Liveに出演してラップを歌うというのがあった。数時間後にこのビデオがYouTubeに投稿されるやあっという間にこれが広まり、サイト上で最も人気のあるクリップの一つになってしまった。これに対してNBCがYouTubeに抗議して、このビデオを削除させたのだが、そのまた直後には別の人が同じビデオを投稿するというイタチごっことなり、結局このビデオは今でもYouTubeで検索すると出てくる。
一方でNBCは、YouTubeに遅れて自前のサイトにも同じビデオを掲載し始めた。この騒動で明らかになったのは、こうしたショートビデオをシェアするサイトが、実は非常に大きなマーケティングパワーを持っているということである。Saturday Night Liveにとっては、YouTubeがタダで番組を宣伝してくれたわけで、著作権のあるビデオであるとはいえ悪い話ではない。実際、どうもNBCやCBSのマーケティングサイドの人間が意図的に自社番組のクリップをYouTubeに投稿しているケースがある、とYouTubeの共同設立者のChad Hurleyが言っている。
こういったゲリラ的な使われ方が今後も続くのかどうかは怪しいが、ここにはコマーシャルコンテンツの作成側と、ユーザー投稿コンテンツを扱うサイト側の微妙な利害関係とジレンマがあることがわかる。コンテンツ作成側からすれば、その圧倒的なトラフィックが魅力的であり、サイト側からすればコマーシャルコンテンツの集客力が魅力となっている一方で、そのコンテンツは建前上そこに存在してはいけないものなのだ。
上出のHollywood Reporterの記事でも触れられているが、今後YouTubeが大手のメディアに買収されるか、あるいは協力関係を結ぶことは大いにありえる。そうなると、純粋なユーザー投稿コンテンツのシェアリングという現在の建前の姿から、スタジオの持つ膨大なライブラリコンテンツのハイライトシーンのクリップが並んで、そこからコンテンツが売れていくという、全く新しい姿に変貌している可能性もあるのかもしれない。