ハリウッドの次のビジネスモデル

今週はSanta Monicaで開催されているDigital Hollywoodというカンファレンスに来ている。
http://www.digitalhollywood.com/
これはコンテンツのデジタル化に伴って、ハリウッドからテクノロジー業界まで今後どのように変化していくのかというのを様々な視点から議論するもので、年に数回開催されている。

今日のセッションの中から、特に興味深かった話を取り上げて考えてみようと思う。

"Hollywood and Digital Consumer"というセッションの中で議論された話。これまでリニア中心だったテレビ番組が、インターネットやVODなどの新しいプラットフォームでdisaggregateされていくという現在の潮流は、コンテンツの消費者にはいいかもしれないが、コンテンツ供給側にとっては実は儲からないビジネスになっているというもの。

これはこのブログでも何回か取り上げてきた話題だが、やはりハリウッドも同様の懸念があるらしい。この話をしていたのは、タイムワーナー傘下でプレミアムケーブルチャンネル最大手であるHBOのJohn Penney氏。HBOはケーブルや衛星放送の加入者から追加の視聴料を徴収することでビジネスをしている。ケーブルのVODのプラットフォームでもHBOの番組を見ることができるが、これはSVODと呼ばれるモデルで、HBOの加入者のみが見ることができるプレミアムのVOD。加入者でない人がアラカルテで見ることはできない。

HBOは映画のスタジオからコンテンツをaggregateしているだけでなく、コンテンツの製作者でもある。集めてくる映画の中には人気のないものもあるし、オリジナルのシリーズにしても"The Sopranos"のように大ヒットするものもあれば、そうでないものもある。これらのコンテンツ全てをパッケージにして、月額のsubscriptionを売ることでビジネスが成り立っている。

氏が心配しているのは、このままdisaggregationが進んでいってしまうと、これまでのビジネスモデルが成り立たなくなってしまい、ハイクオリティなコンテンツ製作ができなくなってしまうのではないかということ。映像コンテンツ製作というのは、とにかく金がかかる。しかし金がかかるにもかかわらずヒットする確率は低いので、ネットワーク局の番組でも視聴率が稼げないと判断した瞬間にシーズンがキャンセルされるといったこともあったりする。こうした性格上、ヒットしたコンテンツの儲けで全体のビジネスが支えられているという構造になっているために、視聴者がヒット作のみにしか金を払わなくなると、他の番組が作れなくなってしまうのだ。

ケーブルチャンネルのアラカルテ化の話をこれまでいくつかしてきたが、おそらくこの問題も根底は同じだろう。

コンテンツビジネスは、これまで常にバンドルやパッケージ、あるいはリニアチャンネルといった冗長を包含する形態を取ってきたために、うまく儲けることができていた。このビジネスモデルがコンテンツのデジタル化と、配信形態の変化によって破壊されつつある。

アップルのiTunesのビジネスモデルを考えてみる。レーベルはiTunesで音楽を売っても、CDよりも儲けは少ない。アップルにしても、iTunes Music Storeそのものからはほとんど儲けがなく、収益の源泉になっているのはiPodというハードウェアである。アップルはインターネットというdisruptiveな技術を利用することで、これまでレーベルにあったCDという収益の源泉を、iPodの収益に移転させることに成功してしまったのだ。

ハリウッドはまだこの新しい時代に適応した新しい収益モデルを見出すことができていない。現在のところ映像の違法ファイル交換は音楽の時のNapsterほどの脅威にはなっていないが、これが実際にDVDやテレビの広告収益を脅かすまでになった時には、ハリウッドは次のビジネスモデルを確立していなければならない。これをハリウッドが見出だすのが先か、あるいはアップルのような会社が収益を持っていってしまうのが先か、向こう数年が勝負の分かれ目になるのではないか。