ネットワーク系列局のノンリニアビジネス

1月14日のエントリー「アメリカのビデオ配信のエコシステム」の中でも触れたが、ネットワーク局のコンテンツがノンリニアのプラットフォーム、すなわちインターネットやVODに乗ってきた時に、ネットワーク系列局への利益配分をどうするのかという議論が最近活発にされてきた。
そもそもこの議論に火をつけたのは、ディズニーのABCがiTunesで人気番組の配信を始めた去年のこと。iTunesで$1.99で販売される番組の利益は全てABCに入ることになっており、この動きに対して系列局が反発していた。だがABCはその後も無料で番組をインターネットでストリーミング放送する実験を始めるなど、続々と新しいサービスを発表しているが、現在のところ系列局はこれらのサービスからABCが得られる利益配分を得ることはできていない。

これに対して、他のネットワーク局で最近いくつか動きがあったので紹介しよう。

まずはFOX。
Fox Affiliates OK Rebroadcasting of Shows on Web
http://www.foxnews.com/story/0,2933,191970,00.html

全米に約150の系列局を持つFOXは、これまでノンリニアのメディアでは人気番組をオファーしてこなかった。どのように利益が配分されるかの詳細は明らかにされていないが、今回これらの系列局と合意に至ったことで、これからFOXの人気番組、「American Idol」や「24」などがVOD、あるいはインターネット経由で何らかの形で見られるようになると思われる。

一方で他のネットワーク局とは一線を画し、全く違うことをやろうとしているのがNBC。以下はBusinessWeekの記事。
NBC, affiliates form video joint venture
http://www.businessweek.com/ap/tech/D8H3D5C80.htm

これはNBCと全米に213ある系列局とがジョイントベンチャーの会社を興すというもので、この新しい会社を通して各系列局が製作したコンテンツをインターネットでの配信などで売るというもの。

この中にはNBCのプライムタイムの人気番組は含まれていないのだが、NBCは系列局のコンテンツをインターネットで売ることによるビジネスの方がはるかに大きいと見ているようだ。

これはおそらく正しい。インターネットはそもそもプライムタイムの番組を見るためのメディアとしてよりも、ローカルのニッチなコンテンツを配信するプラットフォームとしての方がよっぽど適している。ローカルという地域限定のコンテンツを、地域に限定されないインターネットで見られるようにすることで、その地方出身だが現在は別のところに住んでいる人や、あるいは出張で一時期離れている人たちが、ローカルのコンテンツにアクセスできるようになる。

また、その地方出身の人だけでなく、そこを訪れる予定の人たちが事前にその地域のイベント情報など、ローカルの系列局で製作された番組の中で紹介されたものをを見ることができたり、いろいろとビジネスは考えられる。

また、この動きはGoogle、Yahoo、MSNなどのポータル側から見た時も魅力的なものになるのではないだろうか?ABCのストリーミングの話のように、コンテンツ制作側がGoogle VideoiTunesなど中間業者を通さずに直接コンテンツを配信することもやられるようになってきたが、これが通用するのはおそらくプライムタイムの人気番組だけの話。ビデオ以外にもローカルの情報を集めて提供しているポータルサイトが、その中でビデオコンテンツを追加するようなことができれば、ポータルとしての付加価値がそこにあるわけで、直接配信とは違うやり方ができる。彼らがローカル局製作のコンテンツのライセンス契約をする時に、数百の系列局それぞれと別々に契約を結ぶよりも、このNBCの新会社のように窓口を一つにしてくれた方がよっぽどやりやすい。

具体的にはまだどのようなコンテンツをどういった形でオファーするのかは発表されていないが、このNBCのやり方がうまくいけば、おそらく他のネットワーク局も追随するのではないだろうか。