コンテンツと配信サービスの垂直統合はうまくいくのか?

3月31日のエントリーで、CablevisionのネットワークDVRサービスに関して触れたが、今回はこの件のその後の動きに関する話。

CablevisionのネットワークDVRは、ユーザーの家庭のSTBで実現するDVRと全く同等の機能を、Cablevisionのサーバー側で実現するというもの。当初から予想はされていたのだが、先週ハリウッドのスタジオがCablevisionのサービストライアル開始の差し止めを求めて訴えを起こした。スタジオ側の主張は、ネットワークDVRサービスはVOD同等のサービスであり、ライセンスに違反したコンテンツ再配信に当たるということ。

Cablevision側は応戦する構えで、今後の裁判の行方が注目される。

さて、今回の本題はきのうになって更に2つのケーブルチャンネルが訴訟に加わったという話。

CNN, Cartoon Network sue Cablevision over DVR plan
http://today.reuters.com/business/newsArticle.aspx?type=media&storyID=nN30418056

CNN、Cartoon Networkは人気のケーブルチャンネルであるが、これらはいずれもTime Warnerの傘下。同じくTime Warner傘下にあるTime Warner Cableは、CablevisionのNetwork DVRコンセプトと同様のMystroと呼ばれるプロジェクトを進めていたが、著作権上の問題から導入を見送った経緯がある。CablevisionがNetwork DVRのトライアルをアナウンスした後、Time Warner CableはCablevisionのサービスがうまくいけば、同様のサービスを展開することを示唆していた。

当初Time Warner CableがMystroの導入を見送ったのは、Time Warnerグループ自らがコンテンツホルダーであったことは大きな原因の一つだっただろう。今回のCablevisionの訴訟の件にしても、Time Warner Cable側から見れば不利益となる話で、CNN、Cartoon Networksが他のスタジオにやや遅れて訴訟に加わったのも、配信サービス側への遠慮があったのかもしれない。

昨年の12月25日のエントリーで、Comcastがコンテンツを強化しようとしているという話を書いた。配信サービスの側からすれば、コンテンツは外部から買ってこなければならないものだから、それを身内に持つことにアドバンテージがあることは確かだ。しかし今回のNetwork DVRの話のように、ひとたび著作権絡みの話になったとたんに、相反する利害が発生することになってしまう。

この著作権絡みの利害の不一致に苦しんだのがソニー。こちらは配信サービスではないが、レーベルをグループ内に持つことで、制限のきついDRMを携帯音楽プレーヤーに組み込んで悪評を買ってしまった結果アップルの後塵を拝してしまったことは記憶に新しい。ソニー同様松下も1990年にハリウッドスタジオの一角であるMCA(後のUniversal Studios)を買収したが、結局ほとんどシナジー効果を発揮できないまま、今年の2月にわずかに残っていたUniversal Studiosとの資本関係も断ち切ることになった。

話を配信サービスに戻すと、現在アメリカで大きなシェアを持つ配信サービスは軒並みコンテンツも所有している。代表的なところではComcastTime Warner Cable、それにDirecTV(親会社のNews Corp傘下にFOXがある)。しかし、現在のところこれらの配信サービスが、それぞれが持つコンテンツとの間で目立ったシナジーを発揮している様子は伺えない。

Network DVRで話題のCablevisionも傘下にRainbow Mediaを持つが、彼らが所有するVoom HDチャンネルに至っては、現在親会社のCablevisionではキャリーされておらず、配信サービスにおいてはライバルに当たるEchoStarでのみ配信されている。

ビデオ配信ビジネスが、ブロードバンド化の過渡期にあって様々なビジネス形態を模索する中で、これらの配信サービス会社が本当にコンテンツとのシナジーを発揮できるようになるのか?今後の動きに注目していきたい。