「シナジー効果」を諦めたTime Warner

前回のエントリーを書いた翌日(6月2日)のWall Street Journalの1面にタイムリーな記事が出た。

After Years of Pushing Synergy, Time Warner inc. Says Enough

巨大なメディア会社誕生の始まりは1990年のTime Inc.によるWarner Communicationsの買収。当時出版だけでなく、プレミアムケーブルチャンネルのHBO、それに配信のプラットフォームであるケーブル会社も所有していたTime Inc.が、ケーブル事業にビデオ配信の未来を見出して、Warner Communicationsの持つコンテンツとシナジーを発揮することを期待してのものだった。さらにこの後2001年のAOLによるTime Warnerの買収も、基本的なアイデアは同じで、インターネットを加えてさらにグループ内のシナジー効果が発揮されるものとされていた。

しかしその後の経過はAOLの名前が会社名から外されたことに象徴される通り、ほとんどシナジー効果は発揮できなかった。HBOとWarnerの関係に至っても、一方がHBOはWarnerの映画を市場価格よりも低い値段でライセンスするよう要求したと言えば、もう一方はWarnerはHBOに映画を高すぎる値段で売りつけようとしていると文句を言うなど、シナジー効果を発揮するどころか対立するほどになってしまうこともあったようだ。

結局現在のTime Warnerはグループ会社同士でシナジーを発揮するよう努力することをやめた。それならば分割してしまえばいいというのが、投資家Carl Icahnがかねてから要求していたことなのだが、規模が大きいからこそ安定した経営ができる、というのが現CEO Dick Parsonsの言い分らしい。

外部から観察していると、せっかくメジャーなコンテンツと配信プラットフォームを持っているのだから、もっと協力してシナジーを発揮できれば、他社にはできない強力なビジネスモデルを構築できるのではないかと短絡的に考えてしまいがちだが、よくよく考えてみると、各部門が独立してビジネスを運営する一方で、形としては同じグループ会社に留まるという今のTime Warnerの状態がそう悪いものでもないかもしれないと思えてくる。

各部門が独立してビジネスを運営するというのは、グループ内の他部門の力を借りずとも市場で競争力のあるビジネスを運営するということ。オープンな市場で生き残れるだけの力がないのであれば、他の部門と協力したところでその他部門の足を引っ張ることになるだけだ。WSJの記事では、AOLがTime Warnerの出版部門の持つSports Illustrated誌とスポーツコンテンツで協力することを拒んだという例を挙げていたが、AOLにしてみればSI誌のコンテンツよりもよりいいものが市場にあるのだから、これはSI誌のコンテンツが市場で競争力がないことが問題なのであって、これをグループ内だからといって無理やり協力させようとするのはビジネス上得策でないのは明らかだ。

Dick Parsonsが言う、規模のもたらす安定した経営というのは、株のポートフォリオを持つようなものだと考えることもできる。ある部門がたまたま不調なことがあっても、他部門の収益でそれがカバーされれば、グループ全体としては収益が安定する。一昔前、多角化経営という名の下に、自社の全く専門外のビジネスに手を出して痛い目にあった会社があったりしたが、それに比べればそれぞれに専門性を持った部門が一つのグループ会社の元にまとまっているTime Warnerのような形態の方がよっぽど望ましい。

とは言っても、もちろん前回のエントリーに書いたような問題を抱えるリスクはあるわけで、どういった形態がベストなのか、まだ自分の中では答えが出せていない。