衛星放送業者のブロードバンド戦略

先週DirecTVとEchoStarの衛星放送業者2社が、衛星を使ったブロードバンドサービスを提供するWildBlueのサービスを再販することで合意したと発表した。

DirecTV, EchoStar to offer WildBlue high-speed Internet
http://biz.yahoo.com/bizj/060609/1300569.html

ケーブルや電話会社がトリプルプレー、あるいはクアドルプルプレーのバンドルで攻勢をかけてきているのに対し、家庭への双方向のパイプを持たない衛星放送業者は自前でこれらをオファーすることができなかったため、これまでは電話会社と提携することで、ブロードバンドと電話のサービスは電話会社のものをバンドするすることで対抗してきた。しかし、最近は電話会社側も自前でIPTVサービスを提供するようになり、ケーブルも最大手のComcastVoIPの積極的なプロモーションを始めてバンドルサービスへの加入者を伸ばしつつあることもあり、衛星放送への加入者の伸びは鈍化してきている。

2月23日のエントリーで触れたとおり、DirecTVとEchoStarは少し前から自前のブロードバンドサービスを持つべく、WiMaxのオプションを模索していたようだが、今回発表されたのはWiMaxではなく衛星を使ったもの。

この衛星を使ったWildBlueのサービスの利点は、新たなインフラ投資をすることなく全米にブロードバンドサービスを提供できることにあるが、スピードの割にはコストが高く、これまではケーブルやDSLのオプションがない僻地でのニッチなサービスに留まっていた。

もともとはライバル関係にあるDirecTVとEchoStarが今回歩調を揃えてきたことの背景には、共通の敵であるケーブルへの対抗だけでなく、両社で協力してなるべく多くの顧客をこのサービスに誘導することでコストを下げたいという思惑があったのだろう。

WildBlue側も、DirecTV、EchoStar両社と提携することは以前から視野に入れていたようで、WildBlueの衛星そのものはちょうどDirecTVとEchoStarの衛星の中間に位置している。これは共通のアンテナを使ったサービスを提供できるようにすることを最初から狙ってのもので、今回の再販契約で、今後両社は共通のアンテナでサービスを受信できるようなアンテナの開発も進めるようだ。

しかし、一時期はWiMaxも検討しながら、結局投資が少なくてすむ衛星ブロードバンドのオプションを選んだ今回の発表は、中長期で考えたときに、衛星放送業者がケーブルや電話会社に対してインフラでは劣り続けてしまう現実を露呈している。ケーブル業界は過去10年余りで$90 billionものインフラ投資を行って双方向のデジタルパイプを作り上げたし、電話業者のAT&TやVerizonも莫大な金額を投資して現在光ファイバー網の敷設を進めている。

電話会社のIPTVサービスが入った地域では、ケーブル料金が軒並み値下がりしている。これまでは毎年ビデオサービスを値上げしてきたケーブルだが、今後IPTV展開が進むにつれて、ビデオサービスが値下げの方向に向かうこともありえる。そうなったときにケーブルよりも安い値段で顧客を奪ってきた衛星放送はますますつらい立場に追い込まれることになる。

もはやDVRもHDもサービスの差別化にはつながらなくなった。マードックのことだからそう簡単には引き下がらないであろうが、今後衛星放送がどのような形で生き残りを図るのか、次の一手に注目していきたい。