スティーブ・ジョブス vs ハリウッド

Variety誌の面白い記事から。

Steve Jobs: Friend or foe?
Film exex want to tap into Jobs' savvy but worry about his growing clout

http://www.variety.com/article/VR1117945470?categoryid=13&cs=1&nid=2570

記事によると、どうやらアップルはハリウッドのスタジオと、iTunes Music Store向けに映画を一律$9.99でダウンロードできるようにしてほしいという交渉をしている模様。これはiPodに転送して見るためのものではなく、おそらくリビングでテレビにつなげて見るためのものだろう。これまでアップルのリビングへの進出は噂がされながら、目新しい発表はなかった。唯一あったのはマック上の10ft.UIであるFront Rowだけである。

1月19日のエントリーで、アップルのリビング進出への可能性を考えたが、これが実現するのかどうかはこのダウンロード販売の交渉がうまくいくかどうかにかかっているだろう。しかし、個人的にはこの交渉が音楽の時のようにうまくいくとは思えない。

5月9日のエントリーでも触れたが、iTMSが始まった当時、お気に入りの曲を手に入れようと思ったら、違法ダウンロードが一番手っ取り早い手段だった。1曲だけ買いたいと思ってもシングルCDなどほとんどなく、アルバムCDを買うしか手段を与えられていなかった消費者に対して、レーベル側には合法的な手段を提供しなければならないというプレッシャーが大きかったのが当時の状況である。しかし映画に関してはまったく状況が違う。もちろん違法ダウンロードによって手に入れることもできるが、映画は1本そのものがコンテンツだから、音楽CDのアルバムのような冗長さがなく、何よりもDVDで比較的安価に手に入れることができるのである。ダウンロードによる合法手段を提供しなければいけない理由がないのだ。

もちろん、WalMartはじめ店頭で手に入れることのできるDVDのタイトル数は限られているから、ダウンロードによって手に入れにくいものを提供するというのもなくはないが、Netflixを使えば55,000タイトル揃っているし、何より人気を集めるのは新作のタイトルである。現在新作を$20近い値段で売って儲けているスタジオが、新作を$9.99でダウンロード提供する理由がない。

もうひとつ疑問なのは、仮にスタジオが値段に合意したとしても、アップルは果たしてリビングにおけるどんな問題を解決することで進出をはかるのか?iPod+iTMSの時は、iTMSで購入した曲をシームレスにiPodに転送して持ち出すという、これまでのどの携帯音楽プレーヤーが提供していたのよりも簡単な方法を提供することで成功したが、果たしてどんな隠し玉を持ってくるのか?

ただでさえケーブルや衛星のセットトップボックス、DVDプレーヤーなど複数の機器がテレビの複数の入力端子に繋がっている中に入っていって、それらが提供できない強力な何かを提供できるのか?しかもセットトップボックスは月額$5-$10でリースが可能、DVDプレーヤーは既に$100以下が当たり前のところに、おそらく$1,000近くはするであろうマックを置かせることができるのか?

音楽の次はビデオで、というのは技術の観点からは自然な進化に思える。だがユーザーのコンテンツとしての楽しみ方は全く違う。もちろんスティーブ・ジョブスのことだから、そんなことは百も承知だろうし、だからこそ彼が繰り出すであろう秘策は個人的に非常に楽しみでもある。